モバイルスピーカーはなぜモノラルになったのか

いきなりですが、言いたいことを言います。

近年のモバイルスピーカーは、モノラルが主流になってきています。ステレオじゃない。これ、長く音楽を聴いてきた人ほど「え?」と引っかかる事実ではないでしょうか。

だって僕らアラフォー〜アラフィフの世代にとって、物心ついた頃から音楽はずっとステレオなんですよ。左右2つのスピーカーで立体感のあるリッチなサウンドを表現する。それが当たり前で、モノラルで聴くという選択肢が存在しない時代だった。それが今、わざわざ数万円で買うスピーカーがモノラルに戻っている。

これは技術の後退なんだろうか。いや、決してそうは思わない。これは音楽の聴き方、あり方そのものが、この十数年で大きく変わってしまったことの表れなんじゃないだろうか。

というわけで、この記事では、モバイルスピーカーがモノラルになった理由をたどりながら、その「移り変わり」についての考察、そして、じゃぁステレオはもう不要なのか?といったことについても考えていきます。

そもそもステレオとモノラルって何が違うの?

念のため、超ざっくりおさらい。

モノラルは、すべての音が1つのかたまりとして聞こえてくる状態。ステレオは、左右2つのスピーカーから別々の音を出すことで、音に広がりをもたせる仕組み。

イメージとしては、モノラルがボーカルもギターもドラムもコーラスもすべて同じ場所から聴こえてくるのに対して、ステレオは「目の前にバンドが横一列に並んでいて、ギターは左、ドラムは中央、コーラスは右」みたいに、音が空間に配置されて聞こえる感じ。この「どこで鳴っているか」を感じられるのが、ステレオの気持ちよさです。

モノラルとステレオの違いについてはこちらのサイトも参考にどうぞ。

なんとなくイメージ掴めましたか? では本題に入ります。

僕らの時代は音楽=ステレオが「当たり前」だった

アラフィフに片足を突っ込んでいる世代の僕としては、物心ついたときから音楽はステレオが当たり前でした。モノラルかステレオを選んで聴く、みたいなことではなく、ステレオで聴くことはもう空気を吸うように当たり前で、モノラルの選択肢は存在しなかったとも言えます。なぜなら、ステレオは実質モノラルの正統進化版であって、身の回りにあったモノラルスピーカーといえば親父が畑仕事で使ってたラジオくらいのもんでした。

360°スピーカーの登場

スマートフォンの台頭後、初期のモバイルスピーカーはしばらくはステレオ仕様でした。僕が買ってきた数多のモバイルスピーカーも当たり前にステレオでした。だって、音楽=ステレオが当たり前だったから。そこに疑問の余地はなかったわけです。

しかし2017年頃、突如としてモノラルスピーカーが登場します。それが360°スピーカー。

僕は最初、360°スピーカーがモノラルだということを知らなかったんですよ。何度も言いますが、「音楽を聴くためのスピーカーがモノラルのはずがない」っていうのが自分の常識だったから。

よくよく調べてみたら、360°スピーカーとはひとつのスピーカー(あえて難しく言うとトランスデューサー)から出た音を360°均等に送り、部屋中を音で満たす、というもので、つまるところモノラルなわけです。

それ以降、モバイルスピーカー界隈、とりわけBoseやB&Oといった大手メーカーがモノラルのモバイルスピーカーをリリースし始めていくわけです。

余談ですが、360°スピーカーの代表例といえばこちらのBose SoundLink Revolve II。全方位に均等にサウンドをばら撒くシステムは画期的でした。

Bose SoundLink Revolve II Bluetooth speaker ポータブル ワイヤレス スピーカー マイク付 最大13時間 再生 防滴・防塵 8.2 cm (W) x 15.2 cm (H) x 8.2 cm (D) 0.66 kg トリプルブラック
Bose SoundLink Revolve II Bluetooth speaker ポータブル ワイヤレス スピーカー マイク付 最大13時間 再生 防滴・防塵 8.2 cm (W) x 15.2 cm (H) x 8.2 cm (D) 0.66 kg トリプルブラック
BOSE(ボーズ)

なぜ現代のモバイルスピーカーはモノラルが主流なのか

では、なぜモバイルスピーカーがモノラルにシフトしていったのか。これについて深掘りしていきたいと思います。「ステレオの方が良い音なら、全部ステレオにすればいいじゃない」と思いますよね。でも、小型のモバイルスピーカーには、そう単純にいかない事情がいくつもあります。

理由1:小さすぎてステレオ効果が出せない

これがもっとも大きい理由ではないでしょうか。

ステレオで音が左右に広がって聞こえるためには、左右のスピーカーがある程度離れている必要があります。最低でも数十センチ、できれば1メートル以上。昔の家庭用コンポが、左右のスピーカーをわざわざ離して置いていたのを思い出してください。あれには意味があったわけです。

ところが手のひらサイズのモバイルスピーカーだと、左右のユニットの間隔はせいぜい数センチ。これだと、耳に届くころには左右の音がほとんど混ざってしまって、ステレオとして機能しません。狭い部屋で二人が至近距離で別々の話をしても、結局どっちの声も同じ方向から聞こえるのと同じです。

また、ステレオ感が出ないだけならまだしも、2つのスピーカーが近すぎると、お互いに干渉して逆に音が悪くなってしまうことがあります。(コムフィルタリングとかいうやつ)

だったらいっそのことモノラルの方がいいよね、ということです。

理由2:限られた箱は「低音」に全力投球したい

小さな筐体で満足できる音量と低音を出すのは、実はかなり難しいことです。

限られた箱の大きさの中で、左右2つの小さなスピーカーに分けるよりも、1つの大きめのスピーカーにまとめた方が、迫力のある音が出せる。というわけです。スピーカーが大きい方が音量も、低音もしっかり出すことができます。

理由3:そもそもそんなに真剣に聴かれていない

これは少し冷めた見方かもしれませんが、けっこう本質だと思っています。

考えてみてください。僕たちが今音楽を真剣に聴くときって、スピーカーじゃなくてイヤホンやヘッドフォンを使いませんか? 音の広がりや繊細さを味わいたいなら、耳元のデバイスの方が圧倒的に有利です。ステレオ感、いやそれ以上の立体音響は、今や圧倒的な進化を遂げたヘッドフォンの役割になりつつあります。

じゃあモバイルスピーカーの出番はいつかというと、こんな感じじゃないでしょうか。

  • 友達とワイワイするとき
  • デスク作業中のBGM
  • 屋外でBBQ

つまり「みんなで共有する」「空間をなんとなく音で満たす」用途です。

この使い方だと、誰もスピーカーの正面の特等席に座りません。それなら左右の正確な定位(音の位置)よりも、部屋のどこにいても均一に聞こえることの方が大事。むしろ最近の「360度スピーカー」みたいに、全方位に音をばらまく設計の方が理にかなっている。ステレオの「ベストな一点で聴く」という発想自体が、この用途ではちょっと邪魔ですらあるんです。

理由4:比べる相手が「スマホのシャカシャカ音」

もうひとつ、僕の見立てを。

モバイルスピーカーって、実はオーディオ製品というより「スマホの音をマシにする周辺機器」にシフトしたんだと思います。つまり、音響機器というよりガジェット。だから小型・軽量・防水が求められる。

だから、モバイルスピーカーを買う人が比べているのは、高級オーディオじゃなくて、スマホ本体のあのシャカシャカした音

その基準だと、ちょっと低音が出て音量が稼げるだけで「うわ、めっちゃいい音!」となります。辛辣な言い方をするなら、満足のハードルが低い。だったらコストをかけてステレオにする動機も、メーカー側にあまりないわけです。YouTubeやNetflixを、スマホより大きい音で低音効かせて気持ちよく観たい。多くの人にとって、モバイルスピーカーへの期待ってその辺なんじゃないでしょうか。

モバイルスピーカーがモノラル化した理由

  1. 小さすぎてステレオ効果が出ない
  2. 1つの大きめなスピーカーの方が迫力のある音が出せる
  3. そもそもガチ聴き用ではない
  4. 比較対象がスマホのシャカシャカ音なので、低音ズッシリの方がいい音に感じやすい

ところで、スマホ自身はステレオなんだよね

ここで面白い逆転に気づきます。最近のスマホは、たいていステレオなんです。iPhoneの場合、4隅にスピーカーを置いて縦向き、横向きに合わせて最適化されたステレオサウンドになるといった技術も盛り込まれている。

ちょっと古い記事ですが、iPhoneやiPadのスピーカーの仕組みについて解説した記事があるので併せてご覧ください。

つまり、「スマホがステレオでスマホの音を良くするために買い足したモバイルスピーカーの方がモノラル」という、ちょっと歪な事態が起きている。低音や音量ではスピーカーが勝つけれど、ステレオかモノラルかという一点では、手のひらのスマホに負けていることがあるわけです。

なぜスマホはステレオにできて、モバイルスピーカーはできないのか。これも、これまでの話で説明がつきます。スマホは横向きにして動画を観ると、左右のスピーカーが十数センチくらいの間隔ができるし、耳との距離も30センチと近い。しかも正面で・近くで・一人で観る。これ、ステレオが成立する条件(正面・近接・定位置)をきっちり満たしているんですね。一方モバイルスピーカーは「みんなで・離れて・適当な向き」で使われるから、同じ条件を満たせない。

同じ「モバイル」でも、使われ方によってステレオの条件を満たすかどうかで、スマホはステレオ、スピーカーはモノラルに分かれた、ということです。

ここがポイント

スマートフォンは耳との距離が近いから、小さくてもステレオが成り立つ

音楽は「鑑賞」から「環境」に変わった

ここからが、僕が本当に書きたかったことです。

理由をひとつずつ見てきて気づくのは、どれも「スピーカーが悪くなった話」ではないということ。技術はむしろ進歩しています。変わったのは、人と音楽の関係性の方なんですね。

少し時代をさかのぼってみましょう。

かつて、音楽を聴くのは「目的」であり「儀式」だった

ひと昔前、音楽を聴くというのは、けっこう手間のかかる行為でした。

コンポやステレオセットの前に座って、MDやらCDをセットして、左右のスピーカーのちょうど真ん中――いわゆる「特等席」に陣取る。そして音楽だけに耳を傾ける。ジャケットを眺めながら、アルバムを頭から終わりまで通して聴く。音楽は「ながら」でやるものではなく、それ自体が目的の、ちょっとした儀式だったんですよね。

ステレオが当たり前だったのは、こういう聴き方とセットだったからです。正面の定位置で、一人で、集中して聴く。これはまさに、さっき出てきたステレオが成立する条件そのもの。ステレオが常識だったのは、音楽自体が目的だったからにほかなりません。

今、音楽は生活に溶け込んでいる

ところが今はどうだろう。

音楽は、今や儀式ではなくなりました。スマートフォンがあれば、いつでもどこでも聴くことができる。サブスクで何千万曲が手のひらにあって、通勤中はイヤホンで、家事をしながらスピーカーで、寝る前もなんとなく流しっぱなし。「さあ聴くぞ」と居住まいを正す瞬間は、僕と同世代の方でも随分と減ったのではないでしょうか。

音楽が「正面でじっくり鑑賞するもの」から、「暮らしの一部」へと役割を変えた。そうなると、求められるのは音の正確な定位ではなく、「どこにいても心地よく鳴っていること」。モバイルスピーカーがモノラルへ、そして360度へ向かったのは、この変化に素直に従った結果なんです。

つまり、「モノラル化は技術の後退ではなく、音楽が暮らしに溶け込んだことの証」。むしろ「左右のスピーカーの真ん中に正座して聴く」というあのスタイルの方が、長い歴史で見れば特殊な一時代だったのかもしれません。そう考えると、ちょっと見え方が変わってきませんか?

ガチリスニングは、消えたのではなく引っ越した

「じゃあ、じっくり音楽に浸る時間はなくなったの?」というと、そうではありません。居場所が変わっただけです。

その役割は、今やスピーカーからヘッドフォンへ移行しました。ノイズキャンセリングで世界の音を消して、立体音響で音に包まれる。ある意味、昔の「特等席」を、僕らは耳の中に持ち歩けるようになったわけです。スピーカーが共有とBGMに専念できるのは、精聴の役目を耳元のデバイスが引き受けてくれたから、とも言えます。

僕は、今やiPhone × ノイズキャンセリングヘッドフォンが最強のハイエンドオーディオであると考えています。その理由についても詳しく書いているので、併せてご覧ください。

スピーカーでステレオサウンドを楽しむことは、今では一部のオーディオファンだけのニッチで贅沢な娯楽になった、とも言えるのではないでしょうか。

ここがポイント

今はスマホとノイキャンヘッドフォンが最強のハイエンドオーディオであり、ガチリスニングはそちらに移行した

それでも僕はモバイルスピーカーでもステレオにこだわりたい

ここまで「モバイルスピーカーのモノラル化は時代の必然だ」と書いてきましたが、最後に個人的な本音を少しだけ。

だからと言って、僕はやっぱりモノラルで音楽を聴く気になれません。というかチャレンジしたけど無理でした。長年「音楽はステレオ」という常識のなかで生きてきた身には、中央にギュッと固まったモノラルの音が、どうしても平面的で詰まった音に感じられてしまう。理屈じゃなく、体が慣れてしまっているので、聴き流すこともできない。さっきの話で言えば、僕は完全に「儀式の時代」側の人間なんですね。

また、前職が音楽制作業だったことも大いに影響していると思われます。

モノラルが主流になったとはいえ、メーカーは2台接続でステレオ化する機能はちゃんと残してくれています。だから、ステレオで聴きたい人は2台買えということなんですが、2台つないでステレオ化するのは、充電も2台分、機種によってはペアリングも毎回必要で、なかなか面倒。「音楽を聴くだけなのに、なんでこんな不毛な儀式を」とイラッとすることも。おまけに、2台買うわけだから当然値段も倍。

そこで僕が選んだのはBose SoundLink Max。モバイルスピーカーにしては大きめで値段もビッグですが、やっぱ単体完結型がシンプルでいい。

完璧なステレオサウンドではないけれど、あのモノラルの平面感とは明確に違います。時代がモノラルへ流れても、こういう選択肢がちゃんと残っているのは、僕みたいな人間にはありがたい。

Bose SoundLink Max Portable Speaker 大型 Bluetooth ポータブル スピーカー ワイヤレス 防水 最長20時間連続再生 USB-C 3.5 mm AUX入力対応 ブラック
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BOSE(ボーズ)

まとめ:モバイルスピーカーのモノラル化は劣化ではない。必然の変化だ。

モバイルスピーカーがモノラル主流になったのは、技術が退化したからではなく、もちろん人間が退化したからでもありません。

  • 小さな箱では、そもそもステレオが物理的に成立しにくい
  • 真剣リスニングはイヤホン・ヘッドフォンへ引っ越した
  • スピーカーの役目は「共有」と「空間を満たすBGM」に変わった
  • 音楽そのものが、儀式から生活の背景音に変化した

ステレオが当たり前だった時代が、ゆっくり別の形に移り変わっただけ。むしろ、ステレオ不要な環境ではパワーと低音で有利なモノラルという選択肢が増えた、とも考えられる。そう捉えると、モノラルのスピーカーも少し愛おしく見えてきます。

あなたにとって、音楽を聴く時間はどんなものですか? 正面に座ってじっくり? それとも生活に流れるBGMとして? その答えによって、選ぶべきスピーカーの形も、きっと変わってくるはずです。

それではよきモバイルスピーカー生活を!