あまり知られていないAirPods Maxの本当の価値とは

Takashi Fujisakiのアバター
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発売から1年半。今さらですが、AirPods Maxの話をします

なぜ今AirPods Maxの話をするのか。もちろんそれには理由があります。そして実際にAirPods Maxをしばらく使い倒してわかったことを、元音楽屋さんの視点からお伝えします。

この記事ではこんなことを書きます

この記事のポイント

checkiOS 16の「パーソナライズされた空間オーディオ」に期待!

check単にステレオヘッドフォンとしてのAirPods Maxの実力は?

checkAirPods Maxの本当の価値とAppleが目指すものとは。考察

空間オーディオ、きっかけは奥さんの「なんかiPadから音がする…」

僕はオーディオオタク、とは言いませんが、以前音楽屋さんをやっていたもので、スピーカーやヘッドフォンの類はたくさん使ってきた方だと思います。

しかし、かれこれ1年くらい前からでしょうか。インイヤー型のイヤフォンをしていると耳が炎症を起こしがちで、イヤフォンを諦めてヘッドフォンオンリーにしたんです。で、以前使っていたAirPods Proを奥さんにあげました。

ある日、奥さんがAirPods ProとiPadで、NetflixだったかAmazonプライムビデオを観ていたところ、「あれ、もしかして(iPad本体から)音出てる?」って言うので、出ていないと言うと「なんかiPadから聴こえるんだけど…」って言うわけです。

本当にiPad(の方)から聴こえた…

あぁ、外部取り込みオンにしてるのからそう聴こえるのかな?と思ったんですが、どうも僕の声は聴こえていない模様。不思議に思ってAirPods Proを借りてみると…。

たしかにiPadから聴こえる

え、ナニこれ!?ってなって調べたところ、どうやらAppleデバイスには「空間オーディオ」なるものが存在するらしい。ということが分かったのです。

ここがポイント

checkiPhone / iPad / Macには「空間オーディオ」という機能が存在する!

どうせ「ホール」エフェクトみたいなものだろうと思っていた

実際は空間オーディオという言葉も存在も知ってはいたのですが、それが具体的にどんなものかは知らなかったんです。

「空間オーディオ?まぁカーオーディオとかについてる「ホール」とか「ライブ」みたいなサウンドエフェクトの延長でしょ」くらいに思っていたから、興味ももっていなかったのです。

あともうひとつは、HomePodの「これじゃない体験」もあったので。残念ながら期待していたような空間サウンドのようなものではまったくなく、ただただ全方位スピーカーってだけだったので、その記憶が残っていたのもありました。

そんなこんなで、「空間オーディオ」なる言葉には一切の興味をもたずにいました。

しかし、実際に空間オーディオの片鱗を体験したばかりに、興味をもちはじめ、ついにAirPods Maxを買うに至った、というわけです。

AirPods Maxの第一印象 AirPods Proとどう違う?

さて、まずは基本的なサウンドの特長から。

まず、印象は「思ってたより、音が、すこぶる、よい!」

巷では「AirPods Proをそのままオーバーイヤー型にしたような、いわゆるノーマルなサウンド」とのもっぱらの噂でしたが…

ぜんぜん違うじゃないか!!誰だそんなことを言っていたのは。出てきなさいね。もう、全然違いますからね。ほんとに。

たしかに、AirPods Proの印象は「とてもナチュラル」。なんというか、余計な味つけのない、有り体に言えばあまり個性の主張がないナチュラルなサウンドだと思います。

原音に忠実 = 無加工 ではない!

しかし、AirPods Max。君は違う。ぜんぜん。少なくともAirPods Proの音とは似ても似つかない。何十回も聴き比べたけど、僕は音楽屋さんの端くれとして、この2つを同じような音だと言う訳にはいきません。はい。

AirPods Maxの公式サイトでは、「原音に忠実なサウンド」と謳われています。それはたしかにそう感じます。ただし「原音に忠実 」=「無加工」という意味ではもちろんありません。

僕が感じる印象は「原音の特徴を活かし、引き立てる」ための「匠の技」が込められている。そんな印象です。

AirPods Maxのサウンドで、特に特徴的だと感じる部分を4つ挙げました。

AirPods Max 4つの特長

check入念に作り込まれた音質

check謎の立体感(空気感)がある

checkステレオを空間化

check重低音はBose以上

AirPods Maxの特長 1 – 入念に作り込まれた音質

ナチュラルサウンドと評価されているが、緻密に作り込まれたサウンドだと感じる

すっぴん風ガチメイク vs 薄化粧

まず、基本的な音質に関して。Maxは「しっかり作り込みました」感を強く受けます。

原音のよさをより引き立てるための匠の技をそこに感じます。言うなれば、AirPods Maxは「一流メイクさんによるすっぴん風ガチメイク」です。もしくは「素材の味を100%引き立てる寿司職人の包丁さばき」みたいな「細かすぎて伝わらない匠の技」みたいなものが詰まった感じです。

対して、AirPods Proは優秀なサウンドではありますが、Maxのように作り込まれた感じは受けません。どちらかというと「薄化粧」な印象なのがAirPods Proです。

そのくらいの違いを、僕は感じます。

どちらも、原音に忠実だという面では似ていますが、Maxの方はより洗練された印象を受けます。インイヤーとオーバヘッドという物理的な違いはもちろんありますが、単にそれだけの違いではないのは瞭然です。

AirPods MaxはBoseのような超個性派な味つけではない

逆に個性のあるサウンドと言えばBose。僕が現在所有している「Bose NC700」は、ドンシャリでコンプ感の強い、いわゆるBoseサウンドです。Boseといえばこの味つけ、みたいな。この秘伝のタレです、みたいな。全品塩分高め、みたいな。そういうヘッドフォン自身のキャラを出しているブランドです。

Boseのようなサウンドの方向性が確立されたブランドもある

その辺、Appleとは思想が違いますよね。

ここがポイント

checkAirPods Maxのサウンドには、原音を引き立てる「細かすぎて伝わらない匠の技」を感じる

check言うなれば「一流メイクさんによるすっぴん風ガチメイク」

Air Pods Maxの特長 2 – ナゾの立体感 その正体とは

リアルな空間を感じるようなサウンド

音場が広い というわけではなく…

ヘッドフォン界隈ではよく「音場が広い」という言葉を耳にします。ヘッドフォンに関してこの言葉が使われる場合、大抵は「左右への広がり感」を指すことが多いです。より広く聴こえる方が「音場が広い」と表現されます。

でも、僕が伝えたいこの「ナゾの立体感」と言うのは、「音場が広い」とはまた別のものなんです。言語化が難しいんですけど、「包まれる」「膨らみがある」みたいな。「頭の周りにもうひとつ空間がある」みたいな。

ヘッドフォンは、音が出る振動部分と耳までの間の空間、つまりハウジングの部分の構造で聴こえ方が変わってきます。SENNHEISERのMOMENTUM 3にもこれと似たような雰囲気があったんです。Boseにはない立体感というか空気感がありました。

ですが、AirPods Maxの場合は、もっとなんかこう、ソフトウェア的な作為を感じます。

iOS 16の「パーソナライズされた空間オーディオ」でAirPods Maxは本領発揮する

あまり知られていないとは思いますが、Appleは空間オーディオに関してかなり先進的です。今回のiOS 16では「パーソナライズされた空間オーディオ」なるものが搭載されました。

めちゃくちゃかいつまんで言うと、音は人の耳に届くまでに頭の周りを回ったりして耳に届きます。その回り込み方は人によって違うわけです。これをFace IDのセンサーを使って頭の形を計測して、リアル空間での音の回り込みを再現して、一人ひとりにパーソナライズされた空間オーディオを実現する、というものです。

そんなAppleだからこそ、この「自然だけど妙に立体感のあるサウンド」を、ソフトウェア的なテクノロジーを駆使して実現しているように僕は感じました。もちろんそれは将来の「Apple的空間オーディオ」の発展への伏線であると僕は思っています。

ここがポイント

checkAirPods MaxこそiOS 16の「パーソナライズされた空間オーディオ」を最大限に体験できるデバイスだ

ドルビーアトモスの話

少し本題から逸れます。ドルビーアトモスとは空間オーディオの一種ですが、ここまで述べてきた「空間オーディオ」とはまったく別の概念です。簡単にいうと5.1chサラウンドの進化版です。最大で64の独立スピーカーで、最大128の音声オブジェクトを扱うことができます。上からも音が降ってきます。

が、それだけではありません。ドルビーアトモス音源はふつうのステレオヘッドフォンでも聴けます。これまでのサラウンドと決定的に違うのがここです。Apple Musicでは、ドルビーアトモス対応の楽曲を「ドルビーアトモスで聴く」か「従来のステレオで聴く」か選ぶことができます。

本来ヘッドフォンの音は不自然なものである

ふつうのヘッドフォンで聴き比べて見ると、明かに違ったサウンドが返ってきます。ドルビーアトモス音源の方は、ヘッドフォンなのにスピーカーで聴いているように自然に聴こえます。

本来、ヘッドフォンで聴く音は不自然なのです。たとえばリアル空間の場合は、左のスピーカーから鳴っている音も右の耳から聴こえますよね。逆もしかりです。しかしヘッドフォンでは左chから出た音は左耳、右chから出た音は右耳にしか聴こえません。そして、壁などからの反響音も聞こえません。

しかし、ドルビーアトモス音源をヘッドフォンで聴いた場合、スピーカーで鳴らしているような空気感をシミュレーションしたようなサウンドになるのです。

ドルビーアトモスとステレオはコンセプトがまったく異なる

よく「ドルビーアトモスってなんか音場狭くね?」「ステレオの方がいいわ」という声を聴くんですが、それはドルビーアトモスのせいでもなければヘッドフォンのせいでもありません。そもそもコンセプトが違うということと。そして本当のドルビーアトモスは5.1.2chみたいな本格的なシステムで体験するもので、ステレオヘッドフォンではあくまで疑似体験に近いものである、ということなのです。

ステレオの方が好きだ、というのはよくわかります。わかりやすく「音場が広い」し、音の分離がはっきりしていますから。音響好きの方ほどそう感じる傾向はあるでしょう。

しかし、ドルビーアトモス(というかApple?)はおそらく、今後「よりリアルに近いサウンド体験」を突き詰めて行くと思います。これまでのオーディオ的な「いい音」という言葉の定義が変わっていくと思います。

ここがポイント

checkドルビーアトモス音源はフツーのヘッドフォンで聴ける

checkドルビーアトモス音源をステレオヘッドフォンで聴くと、より自然な空気感のサウンドになる

checkドルビーアトモスが「いい音」の定義を変えてしまうかも知れない

Air Pods Maxの特長 3 – ステレオを空間化

意外と知られていないようですが、実はこのAirPods Max、普通のステレオサウンドを「空間化」できます。YouTubeやAmazon Primeなどのステレオミックスの動画の音源を「空間化」できちゃうのです。

空間化は、対応するAppleデバイスと対応するAirPods/Beatsなどのヘッドフォンの組み合わせで体験できます。頭の向きに合わせてあたかも音が再生デバイスの方向から聴こえてくるように聴こえるようになります。現段階ではまだまだ発展途上な感が大きいですが、将来、本当に歌手がそこにいる、楽器がそこにあるように聴こえる、なんてことになるんだろうと思います。

個人的にはこの機能、音楽よりも映画やアニメ・ドラマに相性がとてもいいと思います。

Air Pods Maxの特長 4 – 重低音はBose以上

重低音といえばBoseの専売特許みたいなところがありますが、実はAppleも重低音にはかなりのこだわりがあるようです。HomePodや近年のMacのスピーカーにそれを見てとることができますし、Beatsを買収したところからも低音好きなのかなーって勘繰ってしまいますね。

そしてこのAirPods Maxも例外ではありません。めちゃくちゃ深い重低音を醸し出します。

変に低音をブーストしたようなものではなく、「解像度の高い」低音って感じです。音程ではなく振動で感じる低音まで表現されている感じです。頭蓋骨に響きます。このへんは好みもあるかもしれません。またBoseなどのアプリのようにイコライザーもないので微調整もできません。

ちなみにミュージックアプリにはプリセットのイコライザーがありますが、品質が悪すぎて使ったことありませんし、常にデフォルトで聴くことをおすすめします。

Appleがグラフィックイコライザーを搭載しない理由

イコライザーないのとかダサくね?って思うかもしれませんが、実はAppleはこれをテクノロジーで解決する方向のようです。AirPods ProおよびMaxには耳の内側に向けたマイクが搭載されていて、これで耳を計測して、最適なサウンドを返すしくみがあるんだかこれから実装されるんだか忘れましたが、そういうことらしいです。

Face IDの実装といいマスクでもロック解除できるようになったりと、Appleは徹底してユーザーに面倒な操作をさせないという姿勢を貫いていますね。

「いい音質!」から「いい体験!」に変わっていく

さて、噂の「空間オーディオ」の話に戻りますが、そんなこんなでAppleは「空間オーディオ」による「リアルな音場体験」を突き進めていくことと思います。今までのロスレス・ハイレゾといったいわゆる「いい音質!」の追求から、今度は「いい体験!」の追求に変わっていくことでしょう。「いい音」の概念が変わっていくと思います。

今はその過渡期、というか黎明期ですが、この時代の変化を存分に堪能するためには

やっぱAirPods Maxじゃね!?

って思います。正直めちゃくちゃ高いけど、今この最先端のAppleの空間オーディオを体験できる唯一のヘッドフォンであり、Appleの音響テクノロジーの粋が詰まったロマン溢れるガジェットであります。

ノイズキャンセリング・外音取り込みについて

超優秀。まぁSonyやBoseなどの競合も超優秀だからここで差別化ができるわけではないです。優秀すぎて特に言うことはありません。

AirPods Maxは買いなのか?おすすめする人、しない人

AirPods Max こんな人におすすめ!

こんな方におすすめ

checkメインのヘッドフォンを別に持っている

check映画やアニメなどの動画コンテンツをよく観る

check空間オーディオを味わい尽くしたい!

checkApple信者・お布施上等

checkAirPods Maxの見た目が好き

checkiOS/iPadOSを複数台持っている

AirPods Max こんな人にはおすすめできない!

こんな人にはおすすめしません

checkiPhoneもiPadもMacも持っていない

check単にいい音で音楽が聴ければいい

checkSONY M5と迷っている

check空間オーディオにたぶん一生興味ない

checkドルビーアトモス?なんか強そう^^

check肩こりが強め

僕はAirPods Maxが「いい音」だと思います。でも、ただふつうに音楽が聴きたいだけなら、正直ほかのヘッドフォンの方がコスパ高いと思います。ちなみに、iPhoneやiPadなど「Appleデバイスを持っていない方は買う意味はほぼありません。Apple製品は組み合わせることで本領を発揮するのです

まとめ AirPods Maxの本質とは

AirPods Maxの本質とは

checkAppleの「空間オーディオ」によるサウンド革命の一端を担う、唯一無二のデバイスである。

Appleが開発を進め、iOS 16ではさらに進化する「空間オーディオ」。最先端のサウンド技術革命を最大限に体験できる。それがAirPods Maxの本分なのだというのが僕の主張です。

  • AirPods Maxをひとことでいうと「空間オーディオ超特化型意識高い系総合エンターテインメント向けヘッドフォン
  • AirPods Maxは、iOS 16で登場する「パーソナライズされた空間オーディオ」で本領を発揮する
  • 音楽用ヘッドフォンとしての性能も非常に高いが、音楽用と考えるとコスパは悪い
  • 重低音と独特の空気感が特長的で、アンビエント系や四つ打ちと相性よい
  • AirPods Proとは正直全然違うと思う
  • 現時点では、空間オーディオは音楽より映画などの映像コンテンツと相性がよいと感じる
  • 空間オーディオによって「いい音」の概念が変わっていく。その変遷の中心にいるのがAirPods Max。

AirPods Maxは、特に空間オーディオに関して、替えの効かない唯一無二のヘッドフォンであると言えるでしょう。まさにAppleが生み出したAppleらしいヘッドフォンだと思います。

単に高級ヘッドフォンという括りでいうなら高すぎますが、上記を踏まえると決して高くはない、値段に相応しい価値を僕は感じます。(逆にいえば、ふつうに音楽を楽しみたいだけならSONYとかBose買いましょう。)

ではさようなら!